経済産業省がドローン産業の市場創設に執念を燃やしている。9月4日にはドローンなど小型無人機の飛行を規制する改正航空法が成立したばかりだが、経産省は無人機による物資運搬を可能とする項目を“例外措置”として将来的に同法案に盛り込もうとしている。その手始めとして、秘密裏に準天頂衛星を利用し、小型無人機で離島に物資を配送する実証実験を来年からスタートさせる計画を立てている。
離島で自動運搬実験
実証実験の舞台となるのは、“関東近辺の離島”とだけ判明している。経産省の関係者によると「首相官邸の屋上で発見されて以降、ドローンの事故でいろいろと騒がれているので、なるべく人が少なく、目立たない離島が理想」という。
飛行距離は陸地から離島まで20キロ程度のようで、現在のところ静岡県熱海市の沿岸から初島までの約10キロの距離を、小型無人機で安全かつ正確に荷物を運搬できるか試験を行うという案が有力だ。他にも伊豆半島の沿岸から伊豆大島(東京都)までの約20キロ、神奈川県の横須賀港近辺から猿島(神奈川県)までの約5キロなどが候補地としてあがっている。
運ぶ荷物の重さは約10キロを想定。ただ、現時点で10キロの荷物を運ぶ性能のドローンはないようで、実験ではヘリコプター型の小型無人機を使って実用化の可能性を探ることになりそうだ。
カギを握る準天頂衛星
ここで実験の“カギ”となるのが、準天頂衛星の衛星利用測位システム(GPS)だ。測位誤差を10センチ以下に抑えられ、日本が依存している従来の欧米のGPS(誤差1メートル~10メートル)よりも飛躍的に精度を高められる。現状では難しかったビル街や山間部でも高精度な即位情報が取得できるのも大きな特徴だ。政府は準天頂衛星を現在の1機体制から、平成30年度に4機体制に増強する方針を示しており、経産省はそれまでに小型無人機による荷物運搬ビジネスを本格化させるという青写真を描く。
だが、ここで最大のネックとなるのが改正された航空法だ。改正航空法では、ドローンなどの小型無人機を飛行させる際に周囲の状況を目視で常時監視することや、人との距離を一定程度保つことが義務付けられ、自動飛行による荷物運搬は同法に抵触することになる。経産省はこの法律に“例外措置”を設けることで、小型無人機の自動飛行による荷物運搬を可能にさせたい考えだ。
そこで重要になるのが準天頂衛星となる。この衛星の高精細な測位技術を利用することで、小型無人機の荷物運搬の正確性と安全性を実証実験で証明することが目標だ。この実験が成功すれば、「準天頂衛星で飛行を制御できる場合は、目視できない環境でも飛行を可能にする」といった内容の例外措置を同法に追加することを狙う。
将来は世界で10兆円ビジネス!?
「空の産業革命」と期待されるドローンビジネス。経産省がこだわるのは、その巨大な市場規模だ。国内外のさまざまな調査会社が想定するところによると、世界で年間2割程度の成長が見込め、2018年以降は世界中で規制緩和や法整備が進み、4割程度の成長が続くと予想。空撮や監視、災害対策、運搬などのビジネス用途は19年に1兆円規模、23年には10兆円規模に成長するという試算もあるようだ。
世界のドローン市場を席巻するのが先駆者の米国と低価格品で攻勢をかける中国で、日本は出遅れているのが実情だ。「規制緩和や法整備を早期に実施し、国内で市場を形成しないと、さらに世界に出遅れる」。経産省は焦りを隠さない。
将来は空域をめぐる利権争いが活発化が予想されるドローン市場。経産省がどのようにロードマップを作っていくのか注目される。(西村利也)
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